現代のクラウドコンピューティング環境において、複雑なネットワーク管理をシンプルにする新しいソリューションが求められています。AWS Transit Gatewayは複数のAmazon VPCやオンプレミスネットワークを効率的に接続し管理するためのサービスで、これによりネットワークの運用が大幅に簡単になり信頼性も向上します。本記事では、AWS Transit Gatewayの導入するメリットを中心に、その構造や構築例を詳しく紹介します。企業のネットワーク管理をさらに進化させる具体的な方法を解説します。
目次
AWS Transit Gatewayとは
AWS Transit Gateway(以降、Transit Gateway)は、Amazon Web Servicesが提供するネットワークハブであり、VPCインターフェースなどのクラウドリソースを安全かつ効率的に接続するためのツールです。これにより、複数のVPC間での通信がシンプルになり、ネットワークの複雑性が低減されます。
組織で複数のAWSアカウントを利用し、複数のVPC接続が発生する場合、VPCピアリングでVPC間の接続をしている方も多いのではないでしょうか? VPSピアリングでの接続は、接続ポリシーを一元管理できないと、運用面で大きく負担になりますよね。 とりわけ、オンプレス環境からの接続では、VPNをそれぞれのVPCにアタッチする必要があります。 VPCの数が増えるほど、構築に時間がかかり、管理が複雑化し運用に手間がかかります。
このような場合に、簡単に数百・数千の接続を構築できるのが、Transit Gatewayです。
Transit Gatewayとは、仮想プライベートクラウド(Amazon VPC)とオンプレミスネットワークを相互接続するために使用できるネットワークの中継ハブ(クラウド上にあるルータ)です。これにより、複数のVPC間での通信がシンプルになり、ネットワークの複雑性が低減されます。
以下で、Transit Gatewayを利用するメリットを3つご紹介します。
3つのメリット
メリット1:ネットワークの統合管理が容易になる
Transit Gatewayの導入によりネットワークの統合管理が容易になります。一元管理されたネットワークインフラを提供し、異なるVPCやオンプレミスのネットワークを簡単に接続できるからです。統合管理が容易になることで、セキュリティの向上も期待できます。セキュリティポリシー管理とモニタリングが可能になり、セキュリティリスクを低減できるためです。
また、Transit Gatewayを用いると、アタッチメント数を減らすことができるため、VPCピアリングの手間を大幅に軽減できます。
以下の表は、フルメッシュでVPCピアリングした数(①)とTransit Gatewayを用いた後のアタッチメント数(②)です。VPCピアリングの手間を減らせたのが、お分かりいただけると思います。
メリット2:VPN接続を集約できる
Transit Gatewayを用いると、VPCごとにVPN接続が必要だったのが1つに集約できるため、VPN接続料金を大幅に減らすことができます。例えば、企業が複数の拠点を持っている場合、それぞれの拠点のネットワークを Transit Gatewayを使用して一元管理することで、管理の効率化とコスト削減が可能になります。ネットワークの統合管理を通じて運用の効率性を高め、コスト削減を実現しましょう。
以下の表は、VPCごとのVPN接続料金(①)とTransit Gatewayを用いた後のVPN接続料金(②)です。VPN接続を集約できたため、接続コストを減らせたのがお分かりいただけると思います。
メリット3:AWS Direct Connectとの接続を集約できる
Transit Gatewayを用いることで、AWS Direct Connectとの接続を集約できます。ルーティングで接続するVPCの制御が可能になり、VPC間通信も制御ができるようになります。
AWS Transit Gatewayの構造
ここでは、Transit Gatewayの主な構成要素について詳しく解説します。具体的には、Transit Gatewayのルートテーブル、アタッチメント、アソシエーション、プロパゲーションという4つの要素が重要です。各要素がどのように機能し、どのように相互に関連しているかを詳しく確認していきましょう。
①ルートテーブル
ルートテーブルはネットワークトラフィックを管理するための重要な要素です。正しいルート設定がされていないと、データが目的の場所に届かない可能性があるためです。Transit Gatewayにおいて、ルートテーブルは各アタッチメントがどのように通信するかを定義します。例えば、複数のVPC間での通信や、オンプレミスネットワークとの接続をスムーズに行うためには、ルートテーブルで正確な経路設定が必要です。接続ポイントごとにルートテーブルを設定することで、適切な経路を確保し、無駄なトラフィックを防ぐことができます。
Transit Gatewayのルートテーブル設定には、セキュリティグループやNetwork ACLの設定も含めることが多く、これによりトラフィックの流入・流出を厳格に管理することが可能です。また、Transit Gatewayには最低1つのルートテーブルが必要です。(複数作成することも可能)Transit Gateway作成時にデフォルトのルートテーブルが作成されます。任意で新規作成もできますので、ご自身の目的に合わせて作成してください。
ルートテーブルの設定にはいくつかのベストプラクティスがあります。例えば、スタティックルートを設定することで、ネットワークの安定性を維持し、トラブルシューティングを容易にします。また、ルートの伝播(プロパゲーション)機能を活用することで、複数のルートテーブル間でのルート情報の自動更新を可能とし、管理の手間を軽減することも重要です。ルートテーブルの有効な管理と運用は、ネットワークのパフォーマンスと可用性を向上させるための鍵となります。ルートテーブルの設定は一度きりではなく、ネットワーク構成変更時には随時見直しを行い、常に最適な状態を維持することが求められます。
②アタッチメント
上記構造図では、Transit GatewayとVPC・Direct Connect Gateway・サイト間VPN接続を関連付けています。
Transit Gatewayの「アタッチメント」はネットワークの接続点として重要な役割を果たします。アタッチメントは、仮想プライベートクラウド(VPC)やオンプレミス環境とTransit Gatewayを接続するためのインターフェースです。これにより、一元的で効率的なネットワーク管理が可能となります。例えば、複数のVPCを持つ大規模な企業は、各VPCを個別に管理する代わりに、すべてのVPCをTransit Gatewayにアタッチすることにより、ネットワーク構成の簡略化ができます。また、オンプレミスデータセンターとAWS間でのシームレスな接続を実現する際にも利用されます。
アタッチメントを利用することで、ネットワーク管理の一元化が可能となり、運用の効率性と利便性が向上します。VPCやオンプレミス環境とAWSを接続するためのシンプルでスケーラブルなソリューションを提供し、複数のネットワークの接続と管理を一箇所で行えるようになります。この機能は特に、ネットワークの複雑化が進む大規模な企業や、異なるリージョンや環境間で高い可用性とパフォーマンスを維持したい場合に有用です。
③アソシエーション
アソシエーションは、Transit Gatewayに接続するサブネットを指定する仕組みです。アソシエーションを設定することで、特定のサブネットが Transit Gatewayを通じて他のVPCやオンプレミスネットワークと通信できるようになります。
例えば、VPC内のプライベートサブネットを Transit Gatewayにアソシエーションすることで、そのサブネット内のリソースが他のネットワークと安全に通信できます。この設定により、プライベートサブネット内のEC2インスタンスが、直接接続されている他のVPCやオンプレミスのリソースに対して、セキュリティを保ちながらアクセス可能です。
1つのアタッチメントに対し、アソシエーションできるルートテーブルは1つです。アソシエーションの設定を適切に行い、必要なリソース間の通信を確立しましょう。これにより、ネットワークトラフィックの整理がスムーズになり、管理も簡素化されます。AWS管理コンソールを利用してアソシエーションを設定する場合、関連するサブネットを正確に選択し、必要なルートを定義することで、円滑に運用を開始できます。
④プロパゲーション
プロパゲーションは、ルートテーブルの間でルートを伝播(拡散)させる機能です。これにより、異なるネットワークセグメント間の通信が効率的になり、手動でルートを設定する手間が省けます。例えば、あるVPCから別のVPCへトラフィックを転送する際、プロパゲーションを使うことで、自動的に適切なルートが設定され通信がスムーズになります。プロパゲーション機能を活用することで、ネットワーク管理が簡単になり、全体の運用効率が向上します。
上記構造図では、ルートテーブルごとにプロパゲーションするアタッチメントを登録します。また、各アタッチメントは複数のルートテーブルにプロパゲーションが可能です。これにより、自由に通信制御が可能になります。なお、アソシエーションとプロパゲーションは相互に関連するものではありません。そのためアソシエーションはしないが、プロパゲーションはするという設定も可能です。
AWS Transit Gatewayの利用料金
Transit Gatewayの料金は使用量と地域によって異なります。具体例として、アジアパシフィック(東京)リージョンにおける料金を確認しましょう。
アジアパシフィック(東京)リージョンのAWS Transit Gatewayの料金
AWS Transit Gatewayのアタッチメントごとの料金 | 0.07USD/時間 |
---|---|
処理データ1GBあたりの料金 | 0.02USD/GB |
接続ごとやデータ転送量に対する料金が発生します。具体的には、Transit Gateway接続時間とデータ転送料金の2つの主な要素に基づく料金体系が一般的です。
下記のような図の場合、アタッチメント5個分の利用量+データ転送量が課金対象になります。
- ※ AWS Direct Connect・VPNの利用料金は別途発生します。
- ※ AWS Transit Gatewayについて詳しく料金を知りたい方は、AWS Transit Gatewayの料金 をご確認ください。
AWS Transit Gatewayの構成例
以下の図は Transit Gatewayの構成例です。 Transit Gatewayを導入したことで、VPN接続を集約でき、VPCピアリングの手間を削減できました。
結果、コストや運用管理の手間を削減でき、ネットワークも簡素化されました。
クラウドファイルサーバーでの活用方法
Transit Gatewayを使用することで、複数のVPCやオンプレミス環境間のファイル共有がスムーズに行えます。例えば、企業内の各部門が異なるVPCに存在する場合、Transit Gatewayを活用することで、部門間でのファイルサーバーの共有が容易に行えます。これにより、データの移動やアクセスがスムーズになり、業務効率が向上します。さらに、ネットワークトラフィックを中央管理できるため、通信の監視や管理も簡素化され、トラブルシューティングも効率的に行えるようになります。
以下記事では、クラウドファイルサーバーサービス Amazon FSx for NetApp ONTAPでTransit Gatewayを活用している記事をご紹介します。是非参考にしてみてください。
AWS活用法 | Amazon FSx for NetApp ONTAP導入時の注意や検討ポイントを徹底解説
まとめ
今回は、Transit Gatewayを利用したオンプレミスと複数VPC間のネットワーク接続についてご紹介しました。
当社では Transit Gatewayを含むAWSとオンプレミス間のネットワーク(AWS Direct Connnect接続回線 、VPN接続回線)をご提案することが可能です。特に閉域網接続においては、当社のキャリア・企業向け通信サービス「BroadLine」 を利用するため、安心でセキュアな接続が可能です。
- ※ 実際の導入にあたっては、 Transit Gatewayの各種制限、コスト関連の検討が必要不可欠になります。 Transit Gatewayよくある質問 、AWS Black Belt のご確認をお勧めします。
今回の記事よりAWS利用に興味を持たれた方は、是非当社までお問い合わせ ください。
作成者:鳴海
関連サービス
おすすめ記事
-
2020.06.23
Amazon Connectで在宅勤務でも対応できる問合せ窓口を立ち上げてみた
-
2020.08.17
Datadogで実現するモニタリングとオペレーションのオートメーション化
-
2020.04.27
Amazon FSx for Windows ファイルサーバーへの移行と活用方法
-
2020.06.11
Amazon WorkSpacesとは?その特長をまとめてみた
-
2020.06.23
AWSのDevOpsサービスと当社マネージドサービスを活用したDevOpsの実装①~概念編~