最終更新日:2024.05.20

医療・ゲーム業界で広がるAWSの活用|AWS導入による成功事例4選を紹介

近年、さまざまな業界でAWSの活用が広がっています。業界ごとに事情が異なるため、ニーズも千差万別です。今回の記事では、医療とゲームの2つの業界に焦点を当て、それぞれの企業がAWSをどのように活用しているかを紹介します。

医療業界におけるAWSの強み

医療業界におけるクラウドのニーズから確認していきましょう。

セキュリティ

医療業界では、セキュリティが極めて重要です。患者の機密情報の取り扱いには、最大限の注意を払わなければなりません。警察庁の報告書によれば、医療・福祉分野におけるランサムウェア被害は増加傾向にあるとのことです。近年では、病院を標的としたサイバー攻撃が増加していて、高度なセキュリティ対策が求められています。

※参考 警視庁サイバー警察局 サイバー事案の被害の潜在化防止に向けた検討会報告書 2023 新規ウィンドウで開く

AWSは、強固なセキュリティを実現できるクラウドサービスとして、医療業界から重宝されています。医療機関は、厚生労働省や経済産業省・総務省のガイドラインに従い、データを管理する必要があります。AWSは、これらのガイドラインに基づいたシステム構築を支援するため、医療情報システム向けAWS利用リファレンス 新規ウィンドウで開くを提供しています。

AWSが提供しているAWS エンドユーザーコンピューティング(以降、EUC)は、ネットワーク分離を実現し、セキュアなオンライン環境の構築に役立ちます。EUCサービスのひとつであるAmazon WorkSpacesを活用することで、機密データを安全に保護することも可能です。

ネットワーク分離について詳しく知りたい方は、以下記事を参照ください。

金融業界や公共団体で進むネットワーク分離|今注目される理由を解説! | AWS活用法

データの利活用

もう1点、近年特に注目されているのが、医療データの利活用です。健康状態や治療歴、既往歴などをビックデータとして活用することで、患者一人ひとりの診察精度向上や疾患予防にもつながります。

なお、医療データの利活用は、一次利用と二次利用に分かれます。

  • 一次利用:医療機関が患者本人のために行うもので、診断や治療のために使われる。
  • 二次利用:研究機関や企業が医療・健康分野の発展を目指すための利用で、研究や統計取得に活用される。

以前は一次利用が主流で、個人情報の保護が優先される傾向にありましたが、近年ではクオリティの高い医療サービスの提供に役立つことから、二次利用の重要性が議論されています。

こうしたデータの利活用に際して、AWSの大きな強みとなるのが、リソースの柔軟性です。必要に応じてリソースの追加・削除を簡単に行えるため、大量のデータを扱う医療業界に適しており、医療データの利活用にも大いに役立てられています。

データの利活用に役立つAWSのサービスとしては、Amazon QuickSightやAmazon Redshiftなどがあります。AWSでのデータ利活用について詳しく知りたい方は、以下記事を参照ください。

AWSで実現するデータ分析|AWSが提供しているデータレイク・データウェアハウスツールの活用法 | AWS活用法

AWSで実現するデータ分析|AWSのBIツール「Amazon QuickSight」とは? |AWS活用法

医療業界のAWS導入事例

ここからは、AWSを導入した医療業界の導入事例を紹介します。

Sysmex

会社の概要

シスメックス株式会社は、検体検査に必要な機器をはじめ、検査用試薬やソフトウェアなどを提供する医療機器メーカーです。同社が提供する代表的なサービスには、ゲノム解析結果などをセキュア環境でやり取りできる「OncoGuide™ ポータル」や、治療方針を議論する際の情報共有に役立つ「OncoGuide™ NET」などがあります。

AWS選定の経緯

同社は国立研究開発法人がん研究センターと共同で「OncoGuide™ NCC オンコパネル システム」と呼ばれる検査システムを開発しました。このシステムの開発で重要な要件の一つが、検査結果の情報をセキュアにやり取りする仕組みでした。検査結果には、がん患者のゲノム情報や既往歴などのセンシティブな情報が含まれるため、データの保護が必須だったのです。そこで採用されたのが、AWSでした。
AWSは、(※)厚生労働省・総務省・経済産業省が定めた医療情報システムに関するガイドラインにも対応しており、セキュリティやコンプライアンスへの柔軟性も高くスモールスタートが可能だったことなどが選定の理由でした。

※出典:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月)|厚生労働省 新規ウィンドウで開く

導入の効果

システム開発は内製で進められ、開発環境と本番環境をそれぞれ用意して検証が完了したものから随時デプロイする形式で進められました。この方法により、開発工程もスムーズに進み、全体の期間を短縮することに成功。オンプレミス環境での開発と比較すると、約半分の期間でサービスを構築できたそうです。また、2021年6月時点で「OncoGuide™ NCC オンコパネル システム」は、本検査システムのユーザーのうち90%が利用するほどになっています。さらに「OncoGuide™ NET」は、複数のがんゲノム医療拠点病院と20以上の連携施設で導入されています。
詳しく事例について知りたい方は、AWS公式導入事例ページ シスメックス株式会社 新規ウィンドウで開くをご確認ください。

MICIN

会社の概要

株式会社MICINは、オンライン診療サービス「curon(クロン)」の開発、運営を手掛ける企業です。2015年の創業当初からクロンのアプリケーション・データ基盤の構築や、ITインフラの構築・維持管理のために、AWSを採用しています。

AWS選定の経緯

AWSは世界中の企業が採用しているため、技術者を確保しやすく、マネージドサービスも豊富に用意されている点や、柔軟な変化に対応できるようスケーラビリティの高さなどが選定の重要ポイントだったとのことです。また、同社は開発のアジリティ(素早い対応力)を強く意識していました。プロダクトの短期間でのリリースを目標としていたため、トラブルや環境の変化へスピーディーに対応しつつ開発できる点も、AWS採用の大きな決め手となりました。

導入の効果

同社が最も重視していたのは、セキュリティ面です。創業3年目には、セキュリティの包括的な強化を目指してセキュリティに関する専門部署を立ち上げ、ISMS認証の取得なども積極的に実施。「AWS Well-Architected Framework」に基づき、セキュリティリスクを可視化し改善策を講じる体制をつくってきました。その際、AWSのマネージドサービスを組み合わせることで短期間での開発を実現し、FAX処方箋送付機能に関してはわずか2日という短いスパンでリリースを成功させました。この機能は、リリースからわずか一か月で2,000件を超える薬局に採用されています。
詳しく事例について知りたい方は、AWS公式導入事例ページ 株式会社MICIN 新規ウィンドウで開くをご確認ください。

ゲーム業界におけるAWSの強み

ここからは、ゲーム業界ならではのAWS活用法や強みを紹介します。

膨大なトラフィックに対応できる柔軟性

多くのオンラインゲームは、リリース直後にプレイヤーが集中し、膨大なトラフィックが予想されます。しかし、時間とともにプレイヤー数も減り、それに伴いトラフィックも落ち着く傾向にあります。ピーク期と閑散期のトラフィックの差が極めて大きいのが、ゲーム業界の特長です。AWSは、スケーラビリティが高いため、必要に応じて迅速かつ簡単に縮小や拡張ができます。

優れた柔軟性を持ち、ゲーム開発に役立つAWSのサービスとしては、Amazon EC2(以降、EC2)などが挙げられます。EC2は多種多様なインスタンスタイプが用意されており、サービスの規模や求めるスペックに応じた最適なインスタンスを提供してくれます。また、EC2のオートスケール機能を使えば、CPUの負荷に応じて自動でEC2の台数を増減させることも可能です。オートスケールは、事前に設定したポリシーに従ってピーク時に自動でスケールする設定のほか、時間指定によって制御することもできます。
EC2について詳しく知りたい方は、以下記事を参照ください。

おさえておきたい基本サービス Amazon EC2とは? | AWS活用法

低遅延

オンラインゲーム提供時に起こりがちな問題が、ネットワークの遅延です。特に展開の早いゲームをプレイしているユーザーにとっては、少しの遅延が命取りになりかねません。ちょっとした遅延が頻発すれば、ユーザーの不満につながる大きな原因になります。その点、AWSなら低遅延を実現するための仕組みを構築しやすく、安定した接続を提供できます。

AWSは、低遅延を実現するさまざまなサービスを提供しています。例えば、AWS Direct Connectは、AWSのクラウドリソースに直接接続することで、より一貫性のある低遅延を提供するサービスです。企業が公共インターネットを経由せずにAWSと直接通信できるため、ネットワークの遅延が大幅に削減されます。
またAmazon CloudFrontは、AWSのコンテンツ配信ネットワーク(CDN)サービスです。世界中の多数のエッジロケーションにコンテンツをキャッシュして、エンドユーザーに対してより迅速にコンテンツを提供することで、コンテンツがエンドユーザーに到達するまでの時間が短縮され、低遅延を実現できます。

ゲーム業界のAWS導入事例

続いて、ゲーム業界においてAWSを導入し、課題解決に成功した有名企業の事例を2社紹介します。

ソニーインタラクティブエンタテインメント(SIE)

会社の概要

家庭用ゲーム機「PlayStation」シリーズの開発で知られるソニーインタラクティブエンタテインメントは、PlayStation4向けのネットワークサービス「PlayStation Network」で使うプラットフォームとして、AWSを初めて採用しました。その後のPlayStation 5でも、200以上のコンポーネントからなる50以上のサービスを AWS上で稼働しており、PlayStation Networkの月間アクティブユーザー数は、2023年12月末時点で 1億2,300万アカウントにのぼっています。

AWS選定の理由

PlayStation NetworkがAWSを採用した背景には、オンプレミス環境からの移行によるコストの削減や、キャパシティプランニングの煩雑さ、データセンターの運用負担の解消といった狙いがありました。そして、PlayStation 5の世代では、さらなる進化が見られます。マイクロサービス化やサーバーレス化の加速により、スケーラビリティが向上し、ユーザーエクスペリエンスの向上にも貢献しています。

導入の効果

AWS導入後、PlayStation 5世代向けサービスの開発速度はより加速し、本番環境へのデプロイ回数は一年前と比べて4倍近くなりました。デプロイのリードタイムも従来の10分の1程度になっているとのことで、AWS導入の成果が顕著に見受けられます。また、想定外のアクセススパイクが発生した際は、1クリックでサーバー増設できるスケーラビリティも確保されており、サービスの迅速な拡充と安定した運用で顧客満足度の向上に貢献しています。
詳しく事例について知りたい方は、AWS公式導入事例ページ ソニー・インタラクティブエンタテインメント 新規ウィンドウで開くをご確認ください。

任天堂、DeNA

会社の概要

任天堂株式会社は、Nintendo Switchを含む家庭用ゲーム機やゲームソフトの開発で知られている会社です。2016年3月からは、DeNAとの協業により、スマートデバイス向けのアプリケーション開発も手掛けており、「Super Mario Run(スーパー・マリオ・ラン)」などをリリースしています。このゲームは、AppleのApp Storeを通じて151の国と地域で配信されると、配信後わずか4日という短期間で全世界4,000万回のダウンロードを達成しました。

AWS選定の理由

AWSを採用した理由の一つは、世界中に同時配信するためのクラウドインフラが必要だったためです。ゲーム配信の開始直後には大規模なトラフィックが発生するため、十分なリソースを確保する必要がありました。また、各国の法規制に対応できる点、トラフィックがピークに達した際に生じる負荷に対応できる点、コスト最適化などの観点などを評価したといいます。さらに、もう一つの重要な決め手がありました。それは、DeNAがこれまで構築したオンプレミス環境をスムーズにクラウド移行できる点です。DeNAが培った豊富な実績やナレッジをフル活用しながら、クラウド環境を構築できる点が決め手となり、AWSを選定しました。

導入の効果

アプリのリリース当初は、予想通り世界中のユーザーからアクセスが集中しました。しかし、大きな障害が起こることはなく、安定した稼働の維持を実現できました。その後もユーザー数は増加したものの、現在までに大きな問題は起きていません。また、スピーディーな開発速度もAWSの恩恵の一つです。同社がAWSの構築を開始したのは、リリースのわずか2か月前でした。基本的な構成を1カ月で組み上げ、残り1カ月で負荷テストを重点的に行い無事にリリース。この素早い開発速度を実現できた背景には、AWSサポートエンジニアの存在がありました。開発チーフの竹本氏も「彼らがいたからこそ、その後も何も問題が発生しない、安定したインフラを構築できたと考えています」と当時を振り返っています。
詳しく事例について知りたい方は、AWS公式導入事例ページ 任天堂株式会社、株式会社ディー・エヌ・エー 新規ウィンドウで開くをご確認ください。

まとめ

クラウド環境を構築する際、どのようなセキュリティ対策を施すか、どれほどのトラフィックに対応する環境が必要かなど、重視するポイントは業界によってさまざまです。こういった多様なニーズに対応できるのが、AWSの大きな強みです。移行を検討されている方は、当社までお気軽にご相談 新規ウィンドウで開くください。

関連サービス

導入のお問い合わせはこちら

AWSやAmazon WorkSpacesの導入から接続回線、運用・保守まで何でもお任せください。

お問い合わせ

TOPへ戻る