ガバメントクラウド移行期限が2025年末に迫る中、地方自治体は対応に追われています。ガバメントクラウドの対象クラウドサービスは現在5つあり、なかでも広く採用されているのが「AWS」です。今回は、ガバメントクラウド対応時にAWSを活用するメリット、すでにガバメントクラウド移行に取り組んでいる自治体の事例を解説します。
目次
ガバメントクラウド対応は着実に進んでいる?
ガバメントクラウドの移行が2020年から本格的に始動しました。この章では、各自治体のガバメントクラウド対応状況や、デジタル庁が改定した対応期限延長について解説します。
地方自治体のガバメントクラウド対応期限が迫る
デジタル庁はガバメントクラウド移行を推進し、地方自治体に対して20の基幹系業務システムを、2025年度末までに移行するよう対応期限を設けています。しかし、「移行の難易度が非常に高いと考える特定の自治体システム」に関しては、期限延長が認められました。
ガバメントクラウドへの移行には、まだまだ多くの課題が残っていると指摘する声もあがっています。そのひとつが、ITベンダーリソースが逼迫するのではないか、という懸念です。自治体システムの標準化(ガバメントクラウド)は、同時期に全国のほぼすべての自治体が取り組む大規模なプロジェクトとなるため、ITベンダーの人員や資金が不足するのではないかと問題視されているのです。
ガバメントクラウドの進捗状況
では、実際どこまでガバメントクラウド対応が進んでいるのでしょうか。デジタル庁は、公式Webサイトで以下のような途中経過を公表しています。
出典元:安全・安心で強靱なデジタル基盤の実現 一年の成果・進捗|デジタル庁
見て分かる通り、2022年の段階では「44」だった移行数が、2023年には「130」の自治体に広がっています。さまざまな問題が指摘されているものの、移行は着実に進んでいるといえるでしょう。
先行事業が進んでいる8つの自治体
一部の自治体では、先行事業としてすでにガバメントクラウドへの移行をスタートしており、その中間報告が公表されています。
市町村名 | 取り組み(もしくはこれから取り組む予定のもの) |
---|---|
兵庫県神戸市 | 住民記録システムなどをガバメントクラウド環境に移行 |
岡山県倉敷市 (高松市、松山市と共同提案) |
福祉総合システムなどをガバメントクラウド上に移行 |
岩手県盛岡市 | 税や年金関連業務などをガバメントクラウド上に移行 |
千葉県佐倉市 | 27の基幹業務システムをガバメントクラウド上に移行 |
愛媛県宇和島市 | 財務会計や人事給与システムなどをガバメントクラウド上に移行 |
長野県須坂市 | 既存のインフラを活用したガバメントクラウド上への移行と検証 |
埼玉県児玉郡美里町 (比企郡川島町と共同提案) |
住民サービスなどをガバメントクラウド上に移行 |
京都府相楽郡笠置町 | 安価に接続できることができる回線のあり方に移行・検証 |
神戸市や盛岡市などは、AWSを活用して市の基幹業務システムを移行しています。全国の自治体は、これらの自治体をモデルケースとしながら、2025年度末までの移行完了を目指しています。
さらに詳しく知りたい方は、デジタル庁 中間報告ページ よりご確認ください。
ガバメントクラウドとしてAWSを利用するメリット
政府は現在、ガバメントクラウドの基盤として、5つのクラウドサービスを選定しています。その中でも特に選ばれているのが、AWSです。ここからは、ガバメントクラウドの基盤構築時にAWSを利用するメリットをご紹介します。
AWSについて詳しく知りたい方は、以下記事を参照してください。
AWS活用法 | AWSって何がすごいの? 基礎から機能、注意点まで分かるAWS入門
政府・地方自治体での豊富な導入実績がある
AWSは、ガバメントクラウドの先行事業を進める自治体で積極的に採用されており、日本政府の共通クラウド基盤としても採用されています。
AWSには、中央省庁や地方自治体のシステム導入や運用に関する豊富なナレッジが蓄積されています。これは、これからガバメントクラウド移行を行う自治体にとって、大きな助けとなるでしょう。
AWS専任の技術者やコンサルタントの支援体制が充実している
AWSは、多くのクラウドサービスの中でも、専門知識を持った技術者や担当者が多いことで知られています。AWSには専任の技術者、調達支援者、コンサルタントがおり、ガバメントクラウド専用の相談窓口 も設けられています。
さらに、AWSでは公式認定資格や技術向上をサポートするパートナー制度などが用意されており、信頼できるITパートナーを選びやすくなっています。
高い可用性と耐障害性を実現可能
自治体の根幹システムをガバメントクラウドに移行する際、特に重視されるのが「高い可用性」と「耐障害性」です。AWSは、高い可用性と耐障害性を実現するためのさまざまな機能を提供しています。地理的に分散されたマルチリージョン構成を採用すれば、可用性の高いシステムを簡単に構築できるほか、AWSが提供している各種サービスも可用性や耐障害性を高めるための豊富な機能を備えています。例えば、Amazon S3は、最低3つのAZ(アベイラビリティーゾーン)にわたって複数のデバイスにオブジェクトを冗長して保存しており、99.999999999% の堅牢性と、99.99% のオブジェクトの可用性を提供できるように設計されています。また、Amazon EC2やAmazon DynamoDB、Amazon RDSなどはオートスケーリング機能を備えており、システムに大きな負荷がかかる場面になると自動的にリソースが追加されるため、高い可用性を実現できます。
高い可用性と耐障害性を備えたシステムは、自治体サービスの信頼性と効率を向上させるために不可欠です。こうした理由から、AWSを選ぶ自治体や企業も少なくありません。
ベストプラクティステンプレート「BLEA」で高いセキュリティを実現
BLEAとは、Baseline Environment on AWSの略称で、AWSのセキュリティに関するベストプラクティスを実装した、オープンソースのサンプルテンプレートのことです。このBLEAテンプレートを活用すれば、基本的なセキュリティ対策が施された状態からシステム構築を始めることができ、システムの安全性を高めつつ、システム構築の効率化を図ることができます。
安全性を確保しながらも効率的にシステムを構築できるため、システム開発の初期段階での時間とコストの節約にも役立ちます。
AWSを活用したガバメントクラウドへの対応方法
最後に、盛岡市がガバメントクラウドへの移行時に、AWSを活用した事例をご紹介します。
盛岡市のガバメントクラウド移行事例
52の団体の中から先行事業に選ばれた経緯
盛岡市は、これまで株式会社アイシーエスが提供するパッケージソフトを、同社が管理するサーバー上で使用していました。しかし、そのリース期限が近づいていたため、ガバメントクラウドの先行事業に応募しました。
応募の際、現状と5年後の見通しを比較検証するなど詳細な計画を立てた結果、クラウド利用経験がない団体のモデルケースになりえると評価され、先行事業の対象に選ばれました。
クラウド移行のスケジュール感と進め方
盛岡市の先行事業は、2021年9月から移行プロジェクトが開始され、2022年6月にはAWS上にテスト環境が構築されました。その後、テスト環境と本番環境の構築が行われ、年末年始に移行を実施。2023年1月4日から稼働が開始されています。
また、本番環境は2つのAZ(アベイラビリティーゾーン)に構築し、移行対象ではないシステムとは、サーバー室に専用線を接続することで連携しています。
導入効果
2022年9月の机上検証の結果、ガバメントクラウドへの移行により、全体のコストが「8%削減される」という有望なデータが得られ、今後のより効率的な運用が期待されています。
さらに詳しく知りたい方は、AWS 盛岡市導入事例ページ を参照してください。
クラウド移行を検討しているなら、TOKAIコミュニケーションズまでご相談を
ガバメントクラウドの対応は今後過渡期を迎えると予想されており、ITリソースが逼迫するのではないかという指摘の声もあがっています。こうした状況の中、それぞれの地方自治体は必要なリソースを確保しながら、ガバメントクラウドへの移行をスムーズに成功させなければなりません。全国の地方自治体による、ガバメントクラウドの移行に伴う課題への取り組みは、これからが本番といえるのではないでしょうか。
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