DX(デジタルトランスフォーメーション)の前準備として、クラウド導入を検討されている方も多いのではないでしょうか?AWSでは「Server Migration Service」「CloudEndure Migration」など、様々なマイグレーションサービスが提供されています。「ツールが多すぎて何を選択したらよいか分からない」という方向けに、2021年5月に新しく登場したAWS Application Migration Serviceをご紹介しながら、CloudEndure Migrationとの機能比較もしてみます。
目次
AWS Application Migration Serviceとは?
AWSのリフトアンドシフト型移行ソリューション(ITシステムをAWSへ移行を行う際の戦略のひとつ)として、CloudEndure Migration , AWS Server Migration Service , VM Importなどがあります。そして新たに2021年5月にAWS Application Migration Service(以降AWS MGN)がリリースされました。
AWS MGNは、仮想サーバ・物理サーバが移行対象です。また移行形式は、対象のサーバにMGNエージェントをインストールしサーバ全体をレプリケーションさせて移行を行う、CloudEndure Migrationに近い形式です。
AWSもAWS MGNを「the next generation of CloudEndure Migration」と位置づけし、CloudEndure Migration やAWS Server Migration Serviceを利用するユーザにAWS MGNの利用を推奨しています。
AWS MGNの仕組み
AWS MGNを利用しサーバ移行を行う際の流れを、簡単にご紹介します。詳しく知りたい方は、AWS Application Migration Service Quick start guide をご確認ください。
AWS MGNを利用しサーバ移行を行う際の流れ
- (1)
- (2)
AWS MGNの設定を行います。
(1)で設定したレプリケーションサーバ定義を利用し、移行元サーバとレプリケーションを行います。レプリケーション実施後、任意の地点でレプリケーションサーバ内のデータを基に、新規Amazon EC2(データの移行先)を作成します。
今回実施した手順の仕組みは、以下の通りです。
移行元サーバで実行されているAWS Replication Agentからサーバ内のデータを受信し、Amazon EBSボリュームにサーバ内のデータを書き込みます。
レプリケーションサーバのデータ通信経路は、DirectConnect、VPN接続などのプライベートネットワーク経由での送信も可能です。ご自身の目的に合わせて通信経路を設定してください。
今回の手順を実施したことで、移行元サーバとのデータを常に最新状態に保つことができました。このあと、ユーザの都合のいいタイミングで移行先サーバに切り替えることで移行は完了となります。
下記図はAWS MGNを使ったサーバ移行のイメージ図です。ここでは、オンプレミスで構築された仮想環境下にある仮想サーバをAWSに移行しています。
AWS Application Migration ServiceとCloudEndure Migrationを比較する
CloudEndure Migrationとは?
CloudEndure Migration(以降CloudEndure)はAWSが提供するマイグレーションサービスの一つです。物理・仮想サーバのWindows , Linuxに対応しており、サービス自体は無償(※1)で利用が可能です。スピーディに移行・切り替えが実現できるため、幅広いシーンで使い勝手がよいツールとして、多くのユーザに利用されています。
- ※1 Cloud Endure利用時の通信やAmazon EC2インスタンスには、課金が発生します。
対応しているOS
AWS MGNとCloudEndureは、AWSが提供するマイグレーションサービスです。AWS MGNはCloudEndureに基づいているサービスですが、AWSマネジメントコンソールと統合されていることが、機能面の大きな違いになります。AWSの既存サービスとの連携がしやすくなったため、AWS MGNを利用することがAWSより推奨されています。
このAWS MGNとCloudEndureがどのように違うのか、深掘りしていきます。
まずは、対応しているOSについて比較します。下記の表より対応しているOSは、CloudEndureの方が「32bitの古いOS・WindowsクライアントOS」にも幅広く対応していることがわかります。
- ※ WindowsクライアントOSは、あくまでCloudEndureが対応しているだけです。利用時には、Microsoft側のライセンス規約を満たすか、別途確認が必要です。
対応OSの比較表
AWS Application Migration Service(AWS MGN) | CloudEndure Migration(CloudEndure) | |
---|---|---|
Windows サーバOS |
Windows Server
|
Windows Server |
Windows クライアントOS |
未対応 | WindowsXP,7,8,10,Vista |
Linux |
|
|
Redhat | RedHatEnterpriseLinux6以上 | RedHatEnterpriseLinux5以上 |
対応OSについて詳しく確認したい方は、下記参考ページを確認してください。
- AWS Application Migration Service Supported operating systems
- CloudEndure Migration Supported Operating Systems
料金
AWS MGNとCloudEndureのAWS利用料金について比較してみます。
- ※ 移行処理の中で作成されるAmazon EC2やAmazon EBSの利用料金は除きます。
CloudEndureは、制限なく無料で利用が可能です。しかしAWS MGNでは、Replication Agentをインストールしてから90日までは無料という期間制限があります。(一般的なサーバ移行の場合、90日間は十分余裕を持って移行できる期間です。)
無料期間終了後、移行したいサーバ1台につき1時間からコストがかかります。(従量課金制)
そのためサーバ移行が完了したのち、Replication Agentをアンインストールし、コストがかからないようにしておきましょう。
- ※ AWS MGNやCloudEndureによってプロビジョニングされたAmazon EC2やAmazon EBS料金は別途課金が発生します。
利用料金の比較表
AWS Application Migration Service(AWS MGN) | CloudEndure Migration(CloudEndure) | |
---|---|---|
利用料金 |
|
制限なく無料。 |
料金について詳しく確認したい方は、下記参考ページを確認してください。
ディザスタリカバリ機能
ディザスタリカバリ機能(以降DR)とは、自然災害・テロ・外部からの攻撃などによりシステムが壊滅的なダメージを受けた場合、システムを修復復旧するための仕組み・被害を最小限に抑えるための予防措置のことです。
CloudEndureには「CloudEndure Disaster Recovery」というDR対応のソリューションが存在しますが、AWS MGNにはCloudEndure Disaster Recoveryに相当する機能はまだありません。
AWS MGNはあくまで、CloudEndure Migrationの後継に当たるようです。AWS MGNにもDR機能が実装されるか、今後のアップデートに期待したいです。
- ※ CloudEndure Disaster Recoveryを使用した災害対策について詳しく知りたい方は、下記記事を参考にしてください。
(参考記事)CloudEndure Disaster Recoveryを使用した災害対策とは ~増える日本の災害とAWSを活用した災害対策について~ | AWS活用法
通信要件
AWS MGNの通信要件を確認していきます。こちらは、CloudEndureとまったく同じになります。詳細な通信要件を下記で解説します。
移行元サーバ 通信要件
- TCP1500ポート
- 移行元サーバとレプリケーションサーバ間は、TCP1500ポートでの通信が必要です。このTCP1500ポートでの通信は、移行元サーバデータをレプリケーションする通信に利用されます。
- AWS MGNサービスエンドポイントとTCP443通信
- 移行元サーバからAWS MGNサービスエンドポイントとTCP443通信が必要です。Replication Agentのアップデート、移行元サーバのステータス確認などに利用されます。
レプリケーションサーバ 通信要件
- AWS MGNサービスエンドポイントとTCP443通信
- レプリケーションサーバも、移行元サーバと同様に、AWS MGNサービスエンドポイントとTCP443通信が必要です。AWS MGNと接続し、レプリケーション状況のステータス管理等に利用されます。
通信要件の比較表
AWS Application Migration Service(AWS MGN) | CloudEndure Migration(CloudEndure) | |
---|---|---|
移行元サーバ |
|
|
レプリケーションサーバ(Amazon EC2) | TCP443(MGNサービスエンドポイント) | TCP443(CloudEndureサービスエンドポイント) |
- ※ 通信要件については、サービス名が違うためエンドポイントが異なります。それ以外の通信要件は同じです。
移行手順
AWS MGNとCloudEndureの移行手順は、どのような違いがあるのか確認していきます。
「サーバ1台を移行させる場合の移行手順」で比較します。
AWS Application Migration Service (AWS MGN) |
CloudEndure Migration (CloudEndure) |
---|---|
|
|
移行のポイント
- CloudEndureでは、CloudEndure専用のアカウント作成 が必要。
AWS MGNについては、AWSマネジメントコンソール上で全て設定することが可能です。 - 移行対象のOSにインストールするエージェントが異なる。
CloudEndureでは、「Installation Token」を指定しエージェントをインストールしていました。
しかしAWS MGNでは、IAMユーザの「アクセスキー」、「シークレットキー」を指定し、エージェントをインストールします。
CloudEndure
> installer_win.exe -t <Installation Token> --no-replication
- ※ 「Installation Token」は、CloudEndure管理画面より確認可能です。
AWS MGN
> AwsReplicationWindowsInstaller.exe --region ap-northeast-1 --aws-access-key-id <アクセスキー> --aws-secret-access-key <シークレットキー>
移行についてのまとめ
- 移行手順だけでみると、AWS MGNの方が「CloudEndureアカウント発行やIAMアカウントの連携設定」などが不要になるため、移行しやすい。
- AWS MGNでは、エージェントインストール完了後レプリケーションを開始させないように設定できるオプションが存在しない。(2021年10月現在)
CloudEndureでは、エージェントインストール時のコマンドオプションで「--no-replication」を指定することで、エージェントインストール完了後にレプリケーション開始させないように設定できるオプションが存在しました。このオプションは、レプリケーションサーバ作成のタイミングを制御できるため、課金タイミングを調整することができます。そのため、AWS利用料の削減に繋がります。
しかしAWS MGNでは、これに相当するオプションコマンドはまだ存在しません。
エージェントインストール完了後レプリケーションが開始され、AWS上にレプリケーションサーバが構築されます。AWS MGNでは、ユーザ側でレプリケーションサーバ作成のタイミングをコントールできないことを覚えておきましょう。
まとめ
今回の記事では、対応OS・料金・ディザスタリカバリ機能・通信要件・移行手順について、AWS MGNとCloudEndureを比較しました。
CloudEndureの方が、対応OSの種類、CloudEndure Distaster Recoveryの機能がある点などから、優位性があるように見えます。しかし、AWS MGNはAWSが「CloudEndureの後継」と位置付けているため、CloudEndure Distaster Recoveryに相当する機能が今後登場する可能性があります。
いずれにしても今後のサーバ移行においては、AWS MGNのサポートしていないOSの移行やDRの要件がない限りは、AWS MGNを利用していった方がよさそうです。
本記事を読んで、AWSへのサーバ移行を具体的にどう始めればよいかお悩みの方、移行後のセキュリティや運用監視など相談したい方は、是非当社までお問い合わせ ください。
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