
近年、さまざまな業界で活用が広がっている機械学習。自社のサービスに取り入れたいと考えている企業も多いのではないでしょうか。ただ、機械学習を活用したサービス開発は簡単ではなく、環境の構築からモデルの作成、トレーニング、本番環境へのデプロイという一連のプロセスを整える必要があります。そのような機械学習サービスをAWS上で構築するのに役立つのが、Amazon SageMaker です。本記事では、Amazon SageMaker のサービス概要や活用事例に加え、2024年12月に機能拡張された次世代の「Amazon SageMaker AI」についてもご紹介します。
目次
Amazon SageMaker とは
まずは、Amazon SageMaker のサービスの概要から、確認していきましょう。
Amazon SageMaker は、AWSが提供している、フルマネージド型の機械学習サービスです。モデルの作成からトレーニング、本番環境へのデプロイまでを行うためのさまざまなサービスが提供されており、機械学習における環境の構築や運用を自動化できるのが特長です。
2024年12月には、機能が拡張された次世代の機械学習サービス 「Amazon SageMaker AI」が発表されました。
2024年12月に機能拡張、AI開発とデータ分析の次世代サービスへ
2024年12月より前に提供されていた機械学習サービスとしてのAmazon SageMaker は「Amazon SageMaker AI」と改称され、Amazon SageMaker はAI開発やデータ分析の環境をまとめた次世代サービスとなりました。
「Amazon SageMaker AI」では、下記のようなサービスが提供されています。
サービス名 | 概要 |
---|---|
Amazon SageMaker Unified Studio | 機械学習モデルのトレーニングからAIを用いたアプリケーション開発まで行える統合環境 |
Amazon SageMaker Data and AI Governance | データとAIアセットの管理を行う |
Amazon SageMaker Lakehouse | 複数のデータソースからAIトレーニングやデータ分析に利用するデータを統合的に管理する |
機能拡張の背景には、データのサイロ化があります。サイロ化とは、サービスごとにデータが独立して存在することにより、うまく連携が取れず、データを有効活用できなくなってしまう状態です。AWSでは、データのプラットフォームとしてさまざまなサービスを提供していますが、複数のデータソースを用いたデータ処理が難しく、データの所在や処理方法の全体像をつかみにくいことが問題となっていました。また、データの保管場所が複数あると運用が複雑化し、コストも肥大化してしまいます。
機能拡張後のAmazon SageMaker では、データのサイロ化を解消すべく「Amazon SageMaker Unified Studio」が登場。Amazon EMRやAWS Glueといった他のサービスのデータも、統合的に利用できる仕組みになりました。
機械学習モデルのトレーニング法について
機械学習について理解するうえで知っておきたいのが、「教師あり学習」「教師なし学習」などのトレーニング方法についてです。
機械学習モデルのトレーニングにおいては、主に以下の4種類の学習システムがあります。
- 教師あり学習:学習データに正解を与えた状態で学習させる
- 教師なし学習:学習データに正解を与えず学習させ、既知のデータの特徴をもとに解釈させる
- 半教師あり学習:教師あり学習と教師なし学習の両方の学習データで学習させる
- 強化学習:明確に定義された環境で、データから学習することなくシステム自身が試行錯誤する
教師あり学習は、主に販売動向の予測やメールの内容を学習してスパムメールを検知するシステムなどで活用されています。一方教師なし学習は、顧客の行動パターンをグループ化する顧客セグメンテーションや、正常なパターンを学習して異常を検知するシステムの構築などで活用されています。
このように、ひとえに機械学習といってもさまざまなトレーニング方法があり、用途に応じて使い分けられているのです。
Amazon SageMaker の特長
続いて、Amazon SageMaker の主な特長をご紹介します。
機械学習サービスを構築可能
Amazon SageMaker には、機械学習サービスをつくるにあたって必要な機能が揃っているため、ワンストップで機械学習サービスを構築できます。
さらに、「Amazon SageMaker Unified Studio」を使えば、AWSの生成AIサービス「Amazon Bedrock」やデータウェアハウスサービス「Amazon Redshift」など、他のAWSサービスをシームレスに操作することも可能で、機械学習サービスの開発で求められるさまざまな操作を「Amazon SageMaker Unified Studio」上だけで完結させることができます。
なお、「Amazon Bedrock」については、以下の記事で詳しく解説しています。AWS上での生成AIサービスの開発に興味のある方は、あわせてご参照ください。
AWSの生成AIサービス「Amazon Bedrock」とは? 何ができる? メリットや料金体系を解説! | TOKAIコミュニケーションズ AWSソリューション
データウェアハウスサービスの「Amazon Redshift」について詳しくは、以下の記事をご参照ください。
【データ分析入門】Amazon Redshiftとは? 活用事例や料金体系を紹介! | TOKAIコミュニケーションズ AWSソリューション
サーバーの管理コストを抑えられる
Amazon SageMaker はフルマネージド型のサービスであるため、サーバーの管理や障害発生時の対応はベンダーが行います。そのため、基本的にAWS利用者はサービスの開発に専念でき、管理コストも抑えられます。
ノーコードでも機械学習モデルの構築が可能
GUIのサービスである「Amazon SageMaker Canvas」を使えば、ノーコードで機械学習モデルを構築することも可能です。「Amazon SageMaker Canvas」は、一連の機械学習のプロセスを、タスクごとに分けた図を編集する形で、機械学習モデルを構築します。視覚的にわかりやすく操作できるため、これまで機械学習に触れてこなかった人でも簡単に機械学習モデルの構築を始められます。
Amazon SageMaker の活用事例
続いて、Amazon SageMaker の活用事例を2つご紹介します。
竹内製菓株式会社
竹内製菓株式会社は、あられやおかきなど、もち米を主原料とした菓子の製造を手掛ける会社です。同社では長年、製造途中の菓子に温風を当てたり焦げ目をつけたりする際に使用する、チェーンコンベアの故障が問題となっており、故障を低減させることが課題でした。設備機器の故障は、機器の停止および修理で製造を止めてしまうため、企業にとっては大きな痛手になります。機器の点検はしていても、故障は生産過程でゆっくりと進行するため、故障の予兆はベテランの社員でなければ気づかない程度のものでした。
そこで、チェーンコンベアの故障を事前に察知できる仕組みをつくるため、同社ではAmazon SageMaker を導入。故障の予兆である異常な音のデータを十分に得られなかったことから、正常なコンベアを録音し、教師なし学習の方法で機械学習の推論を実施することにしました。また、異音が検知されるとAWSのメッセージサービスである「Amazon Simple Notification Service(Amazon SNS)」で、管理者にアラート通知が飛ぶ仕組みも開発。結果として、放置すると設備停止と修理に3日かかるようなレベルの損傷を、すぐに検知することに成功しました。従来なら機器を数日停止させていたところを、稼働時間外の2時間程度の作業で修復を行い、損害を抑えることができました。
株式会社キタムラ
株式会社キタムラが展開している写真用品店チェーン「カメラのキタムラ」では、カメラやレンズの販売、写真プリント、フォトブックなど多彩なサービスを提供しています。中古カメラの買い取りも事業のひとつです。この中古カメラの買い取り事業は、当初は一部店舗でのみ行われており、事業を推進するには中古カメラの買い取りを全店舗で行うことが課題となっていました。中古カメラの買い取りを全店舗で行えなかった理由は、当時カメラとレンズの機種を特定できるほどの知識を持つ従業員が、限られていたことです。
そこで、Amazon SageMaker で約10万点の教師ありデータを使い、機械学習用のデータベースを構築。店員が専用のタブレットでカメラを撮影すると、画像の識別が行われ、2~3秒程度で機種が判明する仕組みを実現しました。これによって、全国の707の店舗で中古買い取りが可能に。今後は、より多くの経験と知識が求められる高級カメラの判定に適用していくことを目指しています。
Amazon SageMaker の料金体系
最後に、Amazon SageMaker の料金体系についてご紹介します。
「Amazon SageMaker AI」の料金は、データを格納するAmazon S3のデータサイズや、インスタンスタイプ、起動時間、Amazon SageMaker で利用するサービスの料金によって変わります。また、Amazon SageMaker 以外のサービスと連携する場合には、その分の料金も必要です。
なお、「Amazon SageMaker Unified Studio」や、「Amazon SageMaker Lakehouse」は、AWS無料利用枠が適用され、その後は従量課金制となります。
詳しくはAWSの公式サイトをご参照ください。
料金|Amazon SageMaker
Amazon SageMaker の料金例
機械学習開発と運用を行う場合の料金例をご紹介します。AWSのソリューション構成を下記とします。
- トレーニング用データは Amazon S3で保管
- Amazon SageMaker ノートブックインスタンスを提供し、モデル開発
- モデルのトレーニングにAmazon SageMaker トレーニングジョブを利用
- Amazon SageMaker Processing を利用し、データの前処理
- 作成したモデルはAmazon SageMaker ホスティングサービスにて常時稼働
この場合の月額料金は、以下の通りです。
サービス | 項目 | 単価 | 料金 |
---|---|---|---|
Amazon S3 | 70GB | 0.025 USD/GB | 1.75 USD |
Amazon SageMaker ノートブックインスタンス ML ストレージ |
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Amazon SageMaker Processing インスタンス ML ストレージ |
|
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Amazon SageMaker トレーニングインスタンス ML ストレージ |
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Amazon SageMaker ホスティングインスタンス ML ストレージ |
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データ処理量(入力/出力) | 100 GB | 0.016 USB/GB | 1.6 USD |
合計 | 4,377.20 USD(月額) |
まとめ
Amazon SageMaker を使えば、機械学習モデルの構築からトレーニング、本番環境へのデプロイまでを行えます。機械学習はさまざまな業界で普及されており、うまく活用すれば大幅な業務効率の改善も見込めます。この機会に、Amazon SageMaker を活用した機械学習サービスの展開を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、TOKAIコミュニケーションズでは、AWS導入に際したさまざまなサポートを提供しています。豊富なAWS導入実績を持つ当社が、お客様に最適なプランを提案いたします。Amazon SageMaker をはじめ、AWS導入でお悩みの方は、気軽に当社までご相談 ください。
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