AWSを運用するうえで誰もが直面する課題の一つが、コスト管理です。AWSでは、多くのサービスが従量課金制を採用しているため、適切に管理しなければコストが急激に増加したり、不要な継続コストが発生する可能性があります。そのためAWSは、運用者がコストパフォーマンスを最大化できるよう、コスト管理に役立つ複数のWebサービスを提供しています。
そこで今回は、AWSが提供する代表的なコスト管理サービスである「AWS Budgets」と「AWS Cost Explorer」について、その違いや使い分け方を解説します。それぞれの特長や違いを理解して、よりコストパフォーマンスの高いAWS運用を実現にお役立てください。
目次
AWS Budgetsとは
まず、AWS Budgetsの概要や基本機能、料金体系などをご紹介します。
AWS Budgetsについて
AWS Budgetsは、AWSの使用状況をモニタリングし、事前に設定した予算を超過しそうな場合や実際に超過した場合に、Eメールなどで通知を行うコスト管理サービスです。予算超過時に強制停止させるなどの、自動アクションを設定することも可能です。
AWS Budgetsを利用すれば、現状のコストや使用量を定期的にレポートとして受け取ることができ、想定した予算と最新のリソース使用量を常に比較しながらAWSを運用することが可能です。これにより、予算超過やリソースの非効率な使用を防ぐだけではなく、万が一超過が発生した場合にも迅速に対応できるようになります。
AWS Budgetsで管理できる予算は、コスト(費用)を含めた3種類があり、通知先としてはEメール以外にも複数の選択肢が用意されています。これらの基本機能については、次の段落で詳しく解説します。
AWS Budgetsの基本機能
AWS Budgetsの基本機能としては、「予算設定」「予算レポート」「アラート通知」「予算テンプレート機能」の4つがあります。
予算設定
予算設定とは、言葉通り「予算を設定する機能」です。設定できる予算タイプは、以下の3つです。
【AWS Budgetsの予算タイプ】
- コスト(料金)
- リザーブドインスタンス(RI)の使用率
- RI Coverage(カバー率)
予算タイプは、日次・月次・四半期・年次ごとに設定できます。「予算の70%を超えたらアラートを通知する」といったように、細かく予算を設定でき、サービスごとに異なる予算を管理することもできます。また、同時に予算アクションを設定することで、設定した金額を超過した際に特定のEC2インスタンスやAmazon RDSなどを強制停止させることも可能です。これにより、余分なコストを抑えるとともに、リソースの人的・時間的節約が期待できます。
なお、予算設定は固定の設定に加えて、毎月異なる設定ができるほか、予算の有効期限が過ぎた際に、自動で更新を停止するなどの自動アクションも設定できます。
予算レポート
予算レポート機能は、実際にかかったコストや使用量を随時Eメールなどで受け取ることができる機能です。事前に設定した予算に対して、現状どのくらいコストがかかっているか、どのサービスをどのくらい使用しているか確認でき、日次・週次・月次と受け取り頻度も変えることが可能です。予算と実際の使用状況との差分を把握し、適切なコスト管理に役立つでしょう。
アラート機能
アラート機能は、設定した予算を超過した場合や予算に近づいたときに、任意のEメールやチャットツールにアラートを送信する機能です。Eメール以外にも、AWS Chatbotを使って、SlackやAmazon Chimeなどのチャットツールでアラートを受け取ることも可能です。アラート機能を使えば、予算オーバーのリスクを早期に察知し、迅速に対応できます。
予算テンプレート機能
予算テンプレート機能は、あらかじめ用意されたテンプレートを使用して、簡単に予算を作成できる機能です。テンプレートは以下の4種類が用意されており、さまざまなニーズに対応可能です。
【AWS Budgetsの予算テンプレート4種類】
- ゼロ支出予算:AWS無料利用枠を超えると通知する予算
- 月次コスト予算:予算が超過した際、または超えるだろうと予想される際に通知する予算
- 日次Savings Plansカバレッジ予算:Savings Plansのカバレッジ予算が定義したターゲットを下回ったときに通知する予算
- 日次予約使用率予算:リザーブドインスタンスの使用率が定義したターゲットを下回ったときに通知する予算
また、作成した予算はJSONファイルとして出力でき、AWS CLI(Command Line Interface)やAWS CloudFormationで利用することもできます。
AWS Budgetsの料金体系
AWS Budgetsは、予算の作成やアラートの設定までは無料で利用できます。しかし、予算アクションの設定や予算レポート機能を利用する場合には、料金が発生します。
たとえば、特定のアクションを追加したい場合、設定する予算の数に応じて料金が発生します。アクションが有効になっている予算のうち、最初の2つまでは無料ですが、それ以降のアクションについては、1予算ごとに0.10ドル/日の料金がかかります。また、予算レポート機能を利用する際には、配信されるレポートごとに0.01ドルが追加されます。
AWS Budgetsの料金体系について、詳しくはAWS公式の以下のページをご確認ください。
AWS Budgets Pricing - Amazon Web Services
AWS Cost Explorerとは
続いて、AWS Cost Explorerについて解説します。
AWS Cost Explorerについて
AWS Cost Explorerは、AWSサービスの使用状況やコストを棒グラフなどで視覚的に分かりやすく表示してくれるコスト管理サービスです。特に、従量課金制を採用しているAWSサービスにおいては、無駄なコストを削減するためにも、使用状況の把握が重要になってきます。AWS Cost Explorerを活用することで、いつ、どのサービスに対して、どれだけのコストがかかっているかを把握できるため、コスト最適化を行う際に大いに役立ちます。
AWS Cost Explorerでは、当月の利用状況はおよそ24時間後に反映され、最大12か月前までのデータを遡って確認できます。また、蓄積されたデータを基に、今後12か月分のコスト予測も行えます。さらに、時間軸やサービスごとに細かいフィルタリングが可能で、コストや使用量を詳細に分析し、自社の傾向やコストに関する異常な変化を特定するのにも役立ちます。
AWS Cost Explorerの基本機能
AWS Cost Explorerの大きな特長は、粒度の高いフィルタリング機能を活用し、さまざまな観点からコストやリソースの使用状況をチェックできる点です。以下に、AWS Cost Explorerで利用できるフィルターの種類をご紹介します。
サービスごとの月別データ使用量
利用中のAWSサービスごとに、月別でリソースの使用量や料金を確認できます。最大12か月分まで過去のデータを表示でき、サービスごとの使用状況や変化を把握しやすくなります。
アカウントごとの月別データ使用量
アカウントごとに月別の使用量や料金を確認できます。AWSアカウントの請求をひとまとめにできるサービス「AWS Consolidated Billing」を利用して複数アカウントの請求をまとめている場合は、全体の請求額の内訳や各アカウントのコストも細かく確認できます。
日別使用量
日ごとの使用量を確認でき、特定の日付や期間内の、使用量や料金を一目で把握できます。
なお、以下の記事ではAWS Cost Explorerの活用事例について詳しく解説しています。興味のある方はあわせてご参照ください。
AWS Cost ExplorerでAWS料金の見直しをしよう! 成功企業の活用事例を紹介 | TOKAIコミュニケーションズ AWSソリューションAWS Cost Explorerの料金体系
AWS Cost Explorerは、基本的に無料で利用できます。ただし、1時間ごとの詳細な使用状況を確認する場合は、1日の使用レコードにつき0.00000033ドル(USD)の料金が発生します。また、APIを利用する際には、1リクエストごとに0.01ドル(USD)が必要です。
AWS BudgetsとAWS Cost Explorerの違い
ここまで、AWS BudgetsとAWS Cost Explorerのそれぞれの特長を解説しました。一見すると類似しているサービスに思えますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
活用シナリオが異なる
AWS BudgetsとAWS Cost Explorerの最大の違いは「活用シナリオ」です。
AWS Budgetsは、コストなどの予算を設定し、その予算を超過しそうなとき、または実際に超過したときにアラート通知を送る環境を作れるサービスです。これにより、予算超過を未然に防げるうえ、超過したとしても想定予算と実際にかかった予算の齟齬を調べられるため、原因の特定に役立ちます。
一方、AWS Cost Explorerは、粒度の高いフィルタリング機能を活用し、コストや使用状況を詳細に分析できます。この分析結果を基に、無駄なコストの削減や、長期利用を予約することで、大幅割引を受けられる「リザーブドインスタンス(RI)」やクラウドコストの節約ができる「Savings Plans」の利用を検討する際の判断材料となります。
両方を活用するなら、最初にAWS Cost Explorerで使用状況を分析し、最適な予算設定を行います。その後、AWS Budgetsで予算のモニタリングと超過時の対策を行うといった使い方が考えられます。両者の強みを活かすことで、より効果的なコスト管理が実現できるでしょう。
もう一つの類似サービス「AWS Cost and Usage Report」について
もう一つ類似のコスト管理サービスとして挙げられるのが、「AWS Cost and Usage Report(コストと使用状況レポート)」です。Cost and Usage Reportは、AWSの料金と使用量をレポートとして定期的に生成し、データをAmazon S3に保存します。AWS Cost ExplorerやAWS Budgetsと併用すると、さらに詳細な分析や通知設定も可能となります。これらのサービスを上手に使い分けて、最適なコスト管理を目指しましょう。
AWSのコスト管理でお悩みの方は当社までご相談を
AWS上でシステムを運用する際には、コスト管理に関する悩みがつきものです。本記事で紹介した通り、AWSはこうしたコストにまつわる課題を解決するためのさまざまなコスト管理サービスを提供しています。
しかし、「専門知識を持つ人材が不足している」「類似サービスが多くてどれを使えばよいか分からない」といった企業も少なくないことでしょう。当社TOKAIコミュニケーションズでは、AWSのコスト最適化、新規導入、オンプレミス環境からの移行や内製化など、幅広いニーズに対応した支援サービスをご提供しています。AWSの各種認定を取得したエンジニアや営業担当が、一人ひとりの方に寄り添いながら、最適なご提案やサポートを行います。
まとめ
AWS BudgetsとAWS Cost Explorerは、コストや使用量の最新情報を確認できるという点では、類似したコスト管理サービスです。しかし、想定されている活用シナリオには違いがあります。それぞれのサービスの特性を理解し、両者をうまく使い分けることで、AWSのコスト最適化を効果的に進めることができるでしょう。「AWSのコスト最適化を図り、Webサービスを最大限に活用したい」「オンプレミスと同等以上のセキュリティを確保したい」といったAWSに関するお悩みやご要望をお持ちの方は、お気軽に当社までご相談 ください。
関連サービス
おすすめ記事
-
2020.06.23
Amazon Connectで在宅勤務でも対応できる問合せ窓口を立ち上げてみた
-
2020.08.17
Datadogで実現するモニタリングとオペレーションのオートメーション化
-
2020.04.27
Amazon FSx for Windows ファイルサーバーへの移行と活用方法
-
2020.06.11
Amazon WorkSpacesとは?その特長をまとめてみた
-
2020.06.23
AWSのDevOpsサービスと当社マネージドサービスを活用したDevOpsの実装①~概念編~